神奈川の大学生の私見と私感

読んだ本の感想・解説や思った事を文字に起こします。noteでは小説を書いています→https://note.mu/kana_yoko

第3回 トマ・ピケティ「21世紀の資本」

f:id:yoko-kazu1999:20191115222447j:image

こんばんは、前回は世界大戦における資本の性質の変化についてお話ししました。今回は第4章と第5章に入っていきます。

第4章「古いヨーロッパから新世界へ」(147頁~171頁)

 

ヨーロッパに対するアメリカの資本状況

 

前章でみてきた、フランス・イギリスの例はヨーロッパ全域でも共通点が多くあります。20世紀からの国民所得に対する資本率の急激な低下はこの共通点の1つです。これは、ヨーロッパの富裕国が頼っていた外国に保有する資本(植民地等)の減少傾向や、第二次世界大戦で主戦場となったことによる物理的被害、これらによる貯蓄率の低下が大きく影響しています。しかし、近年は農地という資本形態は減少したが、資本/所得比率そのものはあまり変化していないというのは前回もお話しした通りです。

これに対してアメリカはどうでしょうか。まず特徴として、19世紀頃はヨーロッパに比べて莫大な土地を持っていたため、農地の資本価値があまり高くなかったこともあり、資本/所得比率は300%程度とヨーロッパ諸国よりも低い水準でした。大戦期に注目すると、ヨーロッパとは大きく比率が異なります。上記のような20世紀の比率の激変がほとんど見られずに安定した水準を保っています。これは欧州各国よりも、外国資本を比較的に所有していなかったためであるとされています。戦地を免れたアメリカは、独立から発展に向かう際にヨーロッパに保有されて、マイナスとなっていた純外国資本(外国に保有している資本−外国に保有されている資本)を取り返し、アメリカ国内全体の資本のうち98%を自国で保有していたため、外国資本の価値低下に巻き込まれなかったのです。

過去の資本における奴隷制の重要性

 

19世紀の南部アメリカでは奴隷資本が全体のうちで大きな割合を占めていました。当時の綿花のプランテーションとして、イギリスが綿工場を経営し、原材料となる綿花を南部アメリカに作らせる。この際ヨーロッパから運ばれてきたアフリカ諸国の奴隷民を活用して綿花を大量に生産するというような形でした。このころの資本データにはこのような奴隷制に依存したものもあり、このような社会は現在では存在しないので注意をしなければならないとピケティは述べています。

第5章「長期的に見た資本/所得比率」(172頁~206頁)

資本と成長率を結びつけるβ=s/gの法則

 

まず、この章で重要な役割を果たす式について説明します。

β=s/g

各記号の意味は、βが資本/所得比率sが貯蓄率gが国民所得の成長率です。g(成長率)は、1人当たり所得の増加数と人口増加数の和です。では、早速例にならってやっていきましょう。

ある国では毎年の国民所得のうち平均して12%が貯金され、所得成長率が2%であったとします。この国の資本/所得比率は0.12÷0.02=6=600%となります。つまり、この国が300億円の資本を保有しているとすれば、国民所得は50億円であるということになります。この式を扱う上で注意する条件が3つあります。1つ目は、この式は長期的な結果を表すといいうことで、富の蓄積には時間がかかるということ。2つ目は人間が蓄積できる資本に限られるということ。3つ目は資本物価が商品物価と比べて急上せず、同じように推移しているときの数値である(不動産や金融のバブルはここでは検討しない)という3点です。これらに注意してこの式を扱うと低成長が与える影響について検討することができます。

成長率鈍化と資本/所得比率の増大による資本シェアの偏り

 

先ほどの例で成長率の重要性を確かめるために、成長率を2%から1.5%に変更してみましょう。s=12%,g=1.5%なので0.12÷0.015=8つまり、β(資本/所得比率)が800%のなり、成長率が0.5%下がっただけで所得における資本比率は200%も上昇します。

このことは、成長率が低下傾向にある社会では資本の重要度が上がっていくことを表し、資本という価値の上がった富の分配問題に発展していきます。現在資本を大量に所有している富裕層がその資本の価値を所得の減少と引き換えにどんどん上げていってしまうという社会構造が完成していってしまうのです。このg(成長率)の低下傾向は世界的な人口減少の影響でだんだんと進んでいくと予想されます。

民間資本の上昇傾向

 

前節で述べた資本/所得比率の上昇は世界の富裕国で表れています。ちなみに、この資本はほぼすべて民間資本であり、公的資本の割合は非常に低いかむしろマイナスです。この上昇は、日本のバブル崩壊などの短期的な資本の急激な低下などは見られますが、長期的にみると第2次大戦後から、どの国も17,8世紀の高水準と同じレベルまで上昇しているのです。この民間資本拡大は、先ほどのβ=s/gの式で割り出された成長の鈍化による影響だけでなく、各富裕国での民営化の促進や、不動産や金融市場の価格変動に対するキャッチアップ現象からの影響もあります。

純外国資本の可能性

 

国内資本を民間資本と公的資本に分類すると民間資本の占める割合がほとんどであると分かりました。分類方法を変えて、資本を純国内資本と純外国資本に分けて考えても、第4章の説明の通り世界大戦以降の純外国資本はどの国でも低い割合しか持ちません。つまり、現代における国の資本は民間資本への依存度が極めて高いということになります。この純外国資本は、今は非常に数値は低いですが、これから国によって純外国資本が増加する可能性は考えられます。(当然、植民地としての所有はここでは検討されていません。)なぜかというと、資本/所得比率の割合はどの国も上昇傾向を見せていますが、国によって割合にばらつきがあるからです。例えば、高齢化による貯蓄率の上昇と、人口減少による所得成長率の下落が発生している日本では比較的に資本/所得比率の割合が高いです。資本を大量に保有している国家が、逆に資本/所得比率の低い国に投資するのはよく行われることで、2010年代前半では日本の純外国資産は国民所得の約70%まで上昇しています。しかし、これはあくまで可能性があるというだけで、純外国資本比率が世界的に低い割合を推移し続ける可能性も十分に考えられます。

さて、ここまでの章を振り返ると、資本と所得の割合やその歴史について検討してきましたが、次章ではこの資本がどのように労働の分配をに関係するかという本書の目標である「分配の問題」の一つに入っていきます。空いた時間をつかって少しずつ読み進めていきたいと思います。

以上、ご覧いただきありがとうございました。

 

twitter @kana_yoko_D