神奈川の大学生の私見と私感

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第4回 トマ・ピケティ「21世紀の資本」

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こんにちは、今日は雨と北風で今年一番の寒さですね。さて、今回は第Ⅱ部「資本/所得比率の動学」の最終章である第6章についてお話していきたいと思います。どうぞご付き合いください。

第6章「21世紀における資本と労働の分配」(207頁~243頁)

 

資本の労働シェア

 

これまでの方程式を使って労働と資本の分配について考えていきます。第1章で取り扱ったa(国民所得のうち資本が占める割合)=r(資本収益率)×β(資本/所得比率)の式を使っていきます。資本が国民所得6年分保有している国の資本収益率が5%であったとしますこのときaは6×0.05=0.3で30%となり、国民所得のうち30%を資本が担い、残りの70%を労働による所得が担っていることが分かります。では、このr(資本収益率)とは一体何なのでしょうか。

r(資本収益率)はどのように決定するのか

 

資本の収益率を決定するのは

①技術の革新(資本が何に対して使われているのか)

②資本ストックの量

の2つから決定されます。そもそも資本は住居の提供という役割(住宅)と財・サービスを生み出す役割(工場やその土地、機材、インフラなど)が主にあります。では、これら二つの決定要因について検討していきましょう。資本が技術革新に寄与される際は、その資本の限界生産性が考慮されます。限界生産性とは資本が1単位上昇したことによる生産された価値の増加分の事です。この限界生産性は資本の量が増加していくと1単位当たりの増加に伴う生産量の増加分が逓減していくという性質を持っています。つまり、β(資本/所得比率)の増加は、r(資本収益性)を減少させていくことになります。このβが増加分にたいして資本収益率がどの程度で減少するのかが問題となります。この資本収益率の減少の幅はa(所得のうちの資本シェア)を照らし合わせることで理解することができます。

資本収益率の低下傾向が資本に与える影響

 

この所得の資本シェアですが20世紀の代表的な考え方は「コブ=ダグラス型生産関数」といわれるもので、これは所得の資本シェアは固定係数になり、安定するというものでした。ピケティはこの理論を20世紀初頭のアメリカのデータのみに頼ったものであるから、非常に短期的な結果で、長期的には所得の資本シェアは変動すると述べています。この根拠として「資本/所得比率の推移に着目して、広い歴史的背景のなかで捉えようとしている」と自身の研究に信憑性を持たせています。

今までに説明した通り富裕国においてβは人口減少傾向による成長率の伸び悩みで拡大していくとしています。aについては技術革新による年々の資本の用途の多様化(ITの発達による機械労働の増加など)と政策による投資への呼び込みの影響で緩やかな増大傾向がみられています。つまり、rはβの増大により低下傾向にはあるが、aの着実な増加のスピードを緩める程度の減少であると言えます。

21世紀の資本の特徴

 

21世紀が始まり、上記の予測に反して、所得のうち資本の担う割合が低下して、労働が担う割合が増加しているという傾向がここ5年で見えています。しかし、ピケティはまだ短期的なデータしかないため、これからこの傾向が続いていくとは考えにくいとしています。この理由として「技術の気まぐれ」という考えを挙げています。技術の革新が人間労働にとって良い方向に動くことも当然あります。(産業革命時は機械生産の普及により、人間が行う労働量が急増しました。ここではこれに伴う労働環境悪化などの諸問題は取り扱いません。)しかし、人的労働に都合の良い技術革新は、当然いつまでも続くわけはなく、このような性格を「技術の気まぐれ」として説明しています。この一方で富裕国の人口減少傾向は既に始まっており、これからも続いていくだろうという予測が確実であると考えられます。そのため、このまま進めば資本/所得比率の増加はほぼ確実であるので、やはり21世紀は所得の資本シェアの拡大が起こると考えられるのです。

第Ⅱ部はこれで終了です。ここでは、資本/所得比率の動向から資本の役割とその範囲について検討して、21世紀の資本がどのような形態となるかをピケティは予測しました。第Ⅲ部は「格差の構造」でこの資本の性質が生む格差問題について踏み込んでいきます。これで全体の半分弱が終了しました。内容的には前提的なものでこれからいよいよ21世紀の経済社会が抱える問題に触れていきます。なんとかあと1か月以内に読み終われるように頑張りたいと思います。

以上、ご覧いただきありがとうございました。

twitter @kana_yoko_D