神奈川の大学生の私見と私感

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第5回 トマ・ピケティ「21世紀の資本」

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こんばんは、今回からは第Ⅲ部「格差の構造」に入っていきます。Ⅰ~Ⅳ部の構成なのでやっと半分超えたってところですね。ここからは理論よりも現代に対しての実践的なものが多いので、今までの章に比べると文字数は少なめになりそうです。

第Ⅲ部 格差の構造

第7章「格差と集中ー予備的な見通し」(247頁~280頁)

所得格差の分類

 

現在の所得の格差のファクターは3種類あります。

①労働所得による格差

②所有資本所得による格差

③上記2つの格差の相互作用

これらの要因により私たちの世界では所得の格差が生まれていくのです。まず、一口に所得格差といっても労働所得と資本所得による格差の違いがあることに注意しなくてはなりません。労働所得は技術革新・教育制度・労働市場の動向に影響され、所得資本は貯蓄や投資・金融市場・不動産の動きといったものに影響されるように、これら2つは要因もメカニズムも全く異なるためにしっかりと区別して考える必要があります。

この2つの歴史的データを見ると、資本による所得の格差が常に労働による格差よりも大きいことが分かります。ちなみにこのデータは課税前所得であるので、税が累進的であるか逆進的であるかは問いません。

労働による所得と資本による所得

 

労働所得は資本所得に比べて格差は少ないですが、それでも十分無視できない格差があります。近年のアメリカでは最下層から50%の割合の人の労働所得合計が全体の25%という格差を生んでいます。さらに、労働の格差は富裕者の努力によるもので、貧困は自己責任であるという正当化が行われやすく、格差拡大の傾向も出やすいとされています。一方、資本所得の格差はこれとは比にならない格差が生まれている。先ほどと同じように、アメリカの例を見ていると、最下層から50%の割合の人が持つ資本所得合計は全体の2%で、上位10%の富裕層が72%の資本所得を保有しているというとんでもない格差となっています。

ほぼ資本所得を持たない層にとって、財産というものは、当座預金残高や自分の家といったわずかなものしか持ちません。これに対し富裕層は大量の資本を株などの金融市場に投下して、さらなる不労収入を得るという正のスパイラルに浸っています。

所得格拡大の危険性

 

20世紀後半からの資本所得格差拡大の流れとして、封建主義的な時代との違いを比べると、中産階級の台頭というものが挙げられます。安定的な生活を享受する中産階級の肯定的な資本主義への姿勢が今も進行している再富裕者層への富の集中をないがしろにして、先ほども少し述べたような、格差は金持ちが貧乏人に比べて勤勉で実力があった結果であるとか、金持ちが金を稼ぐのは社会構造の安定に貢献する良い事だとする格差の正当性が強化され、さらなる格差の拡大が起こる可能性も十分あり得るようになっているのです。

これらの所得の不平等については、超能力主義的社会(労働所得)の格差と超世襲的社会(資本所得)による格差の2つがあり、これらが同時並行して進んでいることが現在深刻な格差の問題であるとピケティは述べています。

第8章「二つの世界」(281頁~315頁)

フランス(大陸ヨーロッパ)の富の分布

 

フランスなどの大陸ヨーロッパの先進国では、上位10%の富裕者が持つ所得量が30%~35%程度で安定するようになりました。20世紀初頭までは40%を超える保有率であったのが、富裕層への富の集中に歯止めをかけて、減少させた要因はやはり戦争でした。二度の大戦による恐慌や、資本破産。不景気による公共政策の拡大は、富裕者層が保有する資本に大きなダメージを与えたため、結果的に富の集中を阻む役割を果たしたのです。

アメリカの富の分布

 

アメリカの例では、フランスとはさらに違った一面が読み取れます。戦争により資本の集中はフランスと同じ割合まで減少しています。しかし、20世紀終盤から再び富裕層への富の集中が急激な割合で復活しているのです。このトップ層の所得拡大の理由として考えられるのは、主に株の売買によるキャピタルゲインの増大。もう一つは、大企業の重役の報酬が青天井になっていったということだと述べられています。近年の傾向として見られるのは、トップ層は所得が増えれば増えるほど資本からの所得に対する依存度が上がっていくという点です。超大企業をリードする「スーパー経営者」は自分の仕事の対価として莫大な報酬を手に入れています。この構図が富の集中を加速させている要因となっているのです。このような格差の拡大は、庶民の実質購買力を低下させるために金融不安を生じさせるとピケティは考えています。

 

次回は、労働所得格差と資本所得の格差の2つの格差のファクターについて深く掘り下げていきます。所得の格差の構造について詳しく述べられるであろう章なので丁寧に読んでいきたいと思います。

以上、ご覧いただきありがとうございました。

 

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