神奈川の大学生の私見と私感

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第6回 トマ・ピケティ「21世紀の資本」

こんばんは、今回は第9章から入っていきます。

前半Ⅱ部までだいぶ丁寧に読み込んだおかげで、後半の実践的な内容はだいぶペースを上げて読むことができそうです。

第9章「労働所得の格差」(316頁~349頁)

賃金格差の根底

 労働所得の格差は「教育」と「技能」への投資が大きく影響します。これは特に難しく考えることなく、単純に大卒労働者と高卒労働者の所得差や、特殊技術を要する職の所得の高さを見ればわかることです。また、上記の2つは長期的な影響ですが、短期的に労働所得に影響するものとして、最低賃金などの労働市場ルールの存在も挙げています。しかし、ピケティが強調して述べているのは、これらの要素だけでは近年の先進国(特にアメリカ)で発生している過剰な労働所得の集中が説明できないということです。

近年みられる極端な賃金格差の要因

 

ピケティは、この極端な賃金の集中の要因として、大企業の重役の莫大な報酬に対する社会的規範の変化であるとしています。ここらへんは、経済学というより社会学的な見地でアプローチしています。企業の売上に対する貢献度の判断は客観的に答えることはほとんど不可能です。企業の労働者は個人の限界生産性と全く等しい所得が手に入るかというと、当然ながらそんなことはありません。企業の売上に対する貢献度の判断は企業重役の恣意的な判断という要素を除いて考えることはできないのです。このような企業の所得配分の方法で、その企業の重役に対しての所得が恣意的に決定され、増加していくというメカニズムが賃金の過剰な集中につながっているとピケティは考えています。注意してほしいのは、あくまで社会規範による賃金格差への影響は、上記の教育や技術への投資や、労働市場のルールといった影響の上にあるものであり、これらで説明できない追加的な賃金の集中に対しての説明として、社会的規範を問題視しているという点です。

 

第10章「資本所得の格差」(350頁~391頁)

以前説明したように、資本/所得比率の上昇は資本所得の格差を増大させます。そして、第9章で見た労働所得の格差に比べて、資本所得の格差は非常に大きいです。

資本所得格差の推移、不等式r>gの観測

 

資本所得の格差を歴史的にみると、今までに説明した通り、世界大戦時に資本所得に大きなショックが与えられた影響で一時的に低い水準になっていますが、現在は段々と富の集中が復活しているというのが現状です。この変動の中で、ピケティは2つの問を挙げました。なぜ大戦前の富裕国では富の集中が発生していたのか。そして、なぜ戦後の富の集中の復活は以前ほどに富が集中していないのか。というものです。

まず、戦前の富の集中ですが、これは低成長が要因です。経済の低成長は相続資本(当時は農地)の価値を引き上げました。このような相続資本の拡大が、富の集中を生みました。歴史的な統計の事実として、資本収益率は産業革命のほんの数年を除いて常に成長率を上回っています。このr>gという不等式は資本の不平等を生み出す要因として存在しているのです。

その後、戦後復興が進み、資本所得へのショックも回復していきます。このr>gという不等式は存在し続けていますが、現在の富の集中は戦前に比べて低い数値になっています。この要因となっているのが、富や所得に対する課税システムの構築と、戦前と比べると、技術革新の影響で人口統計的デメリットを考慮しても幾分か高い成長率にはなるという2つがあります。しかし、これからの人口減少の進行に技術の進歩がついていく保証は全くないので、これから過去最大の資本所得の不平等を生み出す可能性も十分に考えられます。

これで第Ⅲ部も残すところ11章と12章のみになりました。第Ⅳ部はⅠ~Ⅲ部に比べて文字数もだいぶ少ないので、まとめてブログに上げる予定です。この「21世紀の資本」解説もあと2回で終わりそうなので頑張りたいと思います。

以上、ご覧いただきありがとうございました。

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