神奈川の大学生の私見と私感

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第8回 トマ・ピケティ「21世紀の資本」

第Ⅳ部「21世紀の資本規制」

第13章「21世紀の社会国家」(489頁~513頁)

経済に対する社会国家の役割として中央銀行の役割は非常に大きいものです。しかし、中央銀行は不景気に対応する手段は持ち合わせていますが、資本の構造問題に対してはあまり有効な手段を持たないとピケティは述べています。そのため、この構造については社会国家の役割が重要なのです。富裕国の税収は経済の急成長と共に拡大しています。この税収により、社会国家は基本的に万人にとって平等なサービスを提供します。しかし、当時のような成長は終わり、多様な社会国家のシステムが求められるようになりました。

まず教育ですが、前記の通り教育水準は全体的に上昇しましたが、所得の格差は縮まりませんでした。この原因は労働に要求される教育・学歴も同時に上がったためです。社会的モビリティの観点から見ても、結局は高所得にたどり着くための学歴を得るためには両親の収入が大きく関係しているというデータがあり、特にアメリカでは富裕層の所得拡大と共に上位大学の入学費も上昇しているため、変化はあまりありませんでした。

次に年金について考えると、現役世代が投資を介さず直接年金として給付されるペイゴー方式も、急成長時には自分の支払った額よりも多くの年金収入が期待できるために、教育への出費の拡大などにも積極的になれますが、現在では自分の年金額の保証が少ないため、年金や諸々の税金についても支払うインセンティブが確実になくなっていってしまっています。

第14章「累進所得税再考」(514頁~538頁)

経済のグローバル化は基本的に、富裕層が恩恵を受け、しわ寄せは国内の労働者・貧困層が受け持ちます。近年の目覚ましいグローバル化に対して、このような構図を頭に入れると、累進課税制度が必要不可欠であるということがよく理解できます。

20世紀の大恐慌での失業の増加により、超高所得の金融エリートたちへの批判が生まれ、累進課税が進められるようになりました。このときから、相続に対する課税のほうが大きな割合を持っています。累進課税率は一時期、アメリカで非常に高い水準に設定されていましたが、現在はその割合から比べて低下しました。この影響として大企業重役の企業貢献に対する報酬に値する給与を明らかに超える超高給与が生まれました。ここからいえることは、最高所得に対しての没収的な割合の税率は超高給与を阻止する唯一の方法であるということです。

 

第15章「世界的な資本税」(539頁~566頁)

ピケティはグローバルな資本格差が生じている今、世界が一体となって資本税を設定するべきだと述べています。当然これの実現は全く目途が立っていません。しかし、この世界的な目標に向かって各国が取り組んでいくことが重要であるとしています。EUアメリカの銀行データ共有などが取り組みの一つとして挙げられています。

この様な税制を検討するうえで最も大切なのは「透明性」であるとしています。現在、地球全体の金融収支がマイナスになるという不可解な現象が起きています。(タックスヘイブンの影響と考えられる。)このような不完全なデータではなく、世界規模の正確な資本データを作ることができれば大きな役割を果たすとピケティは考えています。各国の金融規制などもこのようなデータの存在でより効率的なものになっていくのです。

この章の最後で、r>gの悪影響を考えたら、利子をなくすべきだという大胆な意見についてピケティは、利子や市場機能・私有財産は資本の支配ももたらしているが、個人の行動を調整するのに必要不可欠で、ソ連式の人的災害が今のところ利子の必要性を表しているとしています。

第16章「公的債務の問題」(567頁~600頁)

現在、富裕国の多くは債務危機に陥っています。β(資本/所得比率)の高い富裕国がなぜ債務を抱えているのかというと、公的アクターと民的アクターでの分配が上手くいっていないからです。簡単にまとめると、富裕国は金持ちが多いのに政府が貧乏なのです。

莫大な公的債務を解消する方法としてはインフレと緊縮財政の2つがあります。歴史的には多くの国はインフレによって債務問題を解消してきましたが、インフレは扱うのが難しく、失業者の増加(スタグフレーション)などの社会的な悪影響を及ぼすレベルまで到達してしまう可能性も十分あります。今まで述べてきた資本の集中やそれに伴う公的債務の問題をこれから実際に扱う上で一番重要なのは、財産の新しい形態や資本の新しい民主的コントロールの方法を探ることです。これらを行っていくためには企業や個人の経済情報がさらに公開されることが必要です。現在、企業に対して公開が定められているデータでは正確に現状を把握することができないとピケティは考えているのです。

 

これで「21世紀の資本」は終了です。あまり省略せずに書いたので、600頁の本ですが8回分になってしまいました。またデータを基調としたピケティの理論は面白いものでした。以上、ご覧いただきありがとうございました。

 

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