神奈川の大学生の私見と私感

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第8回 トマ・ピケティ「21世紀の資本」

第Ⅳ部「21世紀の資本規制」

第13章「21世紀の社会国家」(489頁~513頁)

経済に対する社会国家の役割として中央銀行の役割は非常に大きいものです。しかし、中央銀行は不景気に対応する手段は持ち合わせていますが、資本の構造問題に対してはあまり有効な手段を持たないとピケティは述べています。そのため、この構造については社会国家の役割が重要なのです。富裕国の税収は経済の急成長と共に拡大しています。この税収により、社会国家は基本的に万人にとって平等なサービスを提供します。しかし、当時のような成長は終わり、多様な社会国家のシステムが求められるようになりました。

まず教育ですが、前記の通り教育水準は全体的に上昇しましたが、所得の格差は縮まりませんでした。この原因は労働に要求される教育・学歴も同時に上がったためです。社会的モビリティの観点から見ても、結局は高所得にたどり着くための学歴を得るためには両親の収入が大きく関係しているというデータがあり、特にアメリカでは富裕層の所得拡大と共に上位大学の入学費も上昇しているため、変化はあまりありませんでした。

次に年金について考えると、現役世代が投資を介さず直接年金として給付されるペイゴー方式も、急成長時には自分の支払った額よりも多くの年金収入が期待できるために、教育への出費の拡大などにも積極的になれますが、現在では自分の年金額の保証が少ないため、年金や諸々の税金についても支払うインセンティブが確実になくなっていってしまっています。

第14章「累進所得税再考」(514頁~538頁)

経済のグローバル化は基本的に、富裕層が恩恵を受け、しわ寄せは国内の労働者・貧困層が受け持ちます。近年の目覚ましいグローバル化に対して、このような構図を頭に入れると、累進課税制度が必要不可欠であるということがよく理解できます。

20世紀の大恐慌での失業の増加により、超高所得の金融エリートたちへの批判が生まれ、累進課税が進められるようになりました。このときから、相続に対する課税のほうが大きな割合を持っています。累進課税率は一時期、アメリカで非常に高い水準に設定されていましたが、現在はその割合から比べて低下しました。この影響として大企業重役の企業貢献に対する報酬に値する給与を明らかに超える超高給与が生まれました。ここからいえることは、最高所得に対しての没収的な割合の税率は超高給与を阻止する唯一の方法であるということです。

 

第15章「世界的な資本税」(539頁~566頁)

ピケティはグローバルな資本格差が生じている今、世界が一体となって資本税を設定するべきだと述べています。当然これの実現は全く目途が立っていません。しかし、この世界的な目標に向かって各国が取り組んでいくことが重要であるとしています。EUアメリカの銀行データ共有などが取り組みの一つとして挙げられています。

この様な税制を検討するうえで最も大切なのは「透明性」であるとしています。現在、地球全体の金融収支がマイナスになるという不可解な現象が起きています。(タックスヘイブンの影響と考えられる。)このような不完全なデータではなく、世界規模の正確な資本データを作ることができれば大きな役割を果たすとピケティは考えています。各国の金融規制などもこのようなデータの存在でより効率的なものになっていくのです。

この章の最後で、r>gの悪影響を考えたら、利子をなくすべきだという大胆な意見についてピケティは、利子や市場機能・私有財産は資本の支配ももたらしているが、個人の行動を調整するのに必要不可欠で、ソ連式の人的災害が今のところ利子の必要性を表しているとしています。

第16章「公的債務の問題」(567頁~600頁)

現在、富裕国の多くは債務危機に陥っています。β(資本/所得比率)の高い富裕国がなぜ債務を抱えているのかというと、公的アクターと民的アクターでの分配が上手くいっていないからです。簡単にまとめると、富裕国は金持ちが多いのに政府が貧乏なのです。

莫大な公的債務を解消する方法としてはインフレと緊縮財政の2つがあります。歴史的には多くの国はインフレによって債務問題を解消してきましたが、インフレは扱うのが難しく、失業者の増加(スタグフレーション)などの社会的な悪影響を及ぼすレベルまで到達してしまう可能性も十分あります。今まで述べてきた資本の集中やそれに伴う公的債務の問題をこれから実際に扱う上で一番重要なのは、財産の新しい形態や資本の新しい民主的コントロールの方法を探ることです。これらを行っていくためには企業や個人の経済情報がさらに公開されることが必要です。現在、企業に対して公開が定められているデータでは正確に現状を把握することができないとピケティは考えているのです。

 

これで「21世紀の資本」は終了です。あまり省略せずに書いたので、600頁の本ですが8回分になってしまいました。またデータを基調としたピケティの理論は面白いものでした。以上、ご覧いただきありがとうございました。

 

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第7回 トマ・ピケティ「21世紀の資本」

第11章「長期的に見た能力と相続」(392頁~445頁)

相続の構造

 

現代の富裕国のトレンドとしてr>gとなることは今まで何度もピケティが述べてきた通りです。この不等式は、相続(過去の富)が貯蓄(現在の富)よりも高い価値を持つことを表しています。では、この高い価値を持つ相続とはどのようなものなのでしょうか。

相続は当然ながら資本の動きに大きく影響されます。相続を国民所得との比率でみると、相続の占める割合を構成する3つの要素が浮かび上がってきます。1つ目はβ(資本/所得比率)2つ目はw(死亡率)3つ目はμ(生存者1人当たりの財産に対する死亡時の財産)です。このなかのw(死亡率)は医療技術の進歩により段々と下がっていきます。死亡率の低下は相続の重要性を引き下げる要因になりますが、必然的に相続年齢が上がっていくことになり、富の高齢化が同時に進行していきます。これは死亡時の財産を向上させることになり、μの値が大きくなることを意味します。つまり、w(死亡率)の低下は同時にμ(生存者1人当たりに対する死亡時の財産)の上昇につながるので、医療技術の発展による死亡率の低下は、相続の重要性を減らす原因にはならないのです。

富の高齢化

 

さらに異なる角度から相続と貯蓄についてみていきます。モディリアーニの三角形というモデルがあります。これは、個人の資本の蓄積は定年まで増加し続けて、定年を境に減少をはじめ、死亡時には貯蓄が0に近い状態になるというものです。ピケティはこのモデルは現代の社会では成り立っていないと否定しています。近年では生前贈与というものかなり増加していて、このモデルのように貯蓄は使い切られずに、相続に回されることが非常に多くなっているます。さらに、r>gのように資本収益率も高い割合にあるので相続による資本の価値は高くなり、どんどん拡大していきます。このような相続の拡大と平均寿命の上昇により、高齢者の富は急速に拡大していきました。皮肉なことに、この富の高齢化は両世界大戦により一時的な若返りを見せましたが、「資本収益率」と「成長率」の関係が変化しない限り富の集積プロセス、高齢化は免れないとしています。

現代における相続の役割

 

20世紀の一時的な相続資本の減少は記録に残っている歴史の中で類を見ないことで、唯一トップ1%の労働所得がトップ1%の相続所得を上回った時期でした。よくこの時期のデータを基にして相続は重大なものではなくなった、という見解が出で来るようになりましたがこれは誤りであるとしています。現在、アメリカ型資本主義の考え方で能力主義的な格差の正当化がよく見られます。実質は教育の全体水準は向上したが、格差は特に縮まらず、国民所得の労働に対する割合も変化していないため、本当に平等な実力主義であるとはいえません。不労所得(相続など)に関しては嫌悪されがちですが、最高の利益を得ることのできる市場となっているのです。

 

第12章「21世紀における世界的な富の格差」(446頁~485頁)

 

これまでに何度も登場している資本収益率ですが、この収益率自体にも格差が存在します。まず、資本を多く所有する人は資産管理コンサルタントへの出資を増大させることができるため、より多くの資本収入を得ることができます。さらに、投資への資金が大きいほうがリスク管理を積極的に行うこともできるので資本収益率は富裕層のほうが大きくなるのです。富の格差はこのようなメカニズムのためにより一層広がっていくのです。

この富の格差は国内より世界全体に目をあてると、さらに増幅していることが分かります。グローバルな格差を助長するものとして、格差の正当性という規範が広まっています。前章でも説明したような相続資本への嫌悪などですが、どのように得られた資本であれ、蓄積された富は前記のメカニズムにより格差を広げていきます。また、インフレも資本の集中を妨げるものと思われがちですが、平均資本価格と消費者物価は基本的に同じように変動するため、投資さえされていれば資本はインフレによる影響をさほど受けないのです。

 

世界的に拡大していき、年々格差を広げる資本に対しての説明はここまででほとんど終了しました。これからは第Ⅳ部「21世紀の資本規制」に入っていき、資本格差の対処法や現代社会の向き合い方について述べられています。

以上、ご覧いただきありがとうございました。

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第6回 トマ・ピケティ「21世紀の資本」

こんばんは、今回は第9章から入っていきます。

前半Ⅱ部までだいぶ丁寧に読み込んだおかげで、後半の実践的な内容はだいぶペースを上げて読むことができそうです。

第9章「労働所得の格差」(316頁~349頁)

賃金格差の根底

 労働所得の格差は「教育」と「技能」への投資が大きく影響します。これは特に難しく考えることなく、単純に大卒労働者と高卒労働者の所得差や、特殊技術を要する職の所得の高さを見ればわかることです。また、上記の2つは長期的な影響ですが、短期的に労働所得に影響するものとして、最低賃金などの労働市場ルールの存在も挙げています。しかし、ピケティが強調して述べているのは、これらの要素だけでは近年の先進国(特にアメリカ)で発生している過剰な労働所得の集中が説明できないということです。

近年みられる極端な賃金格差の要因

 

ピケティは、この極端な賃金の集中の要因として、大企業の重役の莫大な報酬に対する社会的規範の変化であるとしています。ここらへんは、経済学というより社会学的な見地でアプローチしています。企業の売上に対する貢献度の判断は客観的に答えることはほとんど不可能です。企業の労働者は個人の限界生産性と全く等しい所得が手に入るかというと、当然ながらそんなことはありません。企業の売上に対する貢献度の判断は企業重役の恣意的な判断という要素を除いて考えることはできないのです。このような企業の所得配分の方法で、その企業の重役に対しての所得が恣意的に決定され、増加していくというメカニズムが賃金の過剰な集中につながっているとピケティは考えています。注意してほしいのは、あくまで社会規範による賃金格差への影響は、上記の教育や技術への投資や、労働市場のルールといった影響の上にあるものであり、これらで説明できない追加的な賃金の集中に対しての説明として、社会的規範を問題視しているという点です。

 

第10章「資本所得の格差」(350頁~391頁)

以前説明したように、資本/所得比率の上昇は資本所得の格差を増大させます。そして、第9章で見た労働所得の格差に比べて、資本所得の格差は非常に大きいです。

資本所得格差の推移、不等式r>gの観測

 

資本所得の格差を歴史的にみると、今までに説明した通り、世界大戦時に資本所得に大きなショックが与えられた影響で一時的に低い水準になっていますが、現在は段々と富の集中が復活しているというのが現状です。この変動の中で、ピケティは2つの問を挙げました。なぜ大戦前の富裕国では富の集中が発生していたのか。そして、なぜ戦後の富の集中の復活は以前ほどに富が集中していないのか。というものです。

まず、戦前の富の集中ですが、これは低成長が要因です。経済の低成長は相続資本(当時は農地)の価値を引き上げました。このような相続資本の拡大が、富の集中を生みました。歴史的な統計の事実として、資本収益率は産業革命のほんの数年を除いて常に成長率を上回っています。このr>gという不等式は資本の不平等を生み出す要因として存在しているのです。

その後、戦後復興が進み、資本所得へのショックも回復していきます。このr>gという不等式は存在し続けていますが、現在の富の集中は戦前に比べて低い数値になっています。この要因となっているのが、富や所得に対する課税システムの構築と、戦前と比べると、技術革新の影響で人口統計的デメリットを考慮しても幾分か高い成長率にはなるという2つがあります。しかし、これからの人口減少の進行に技術の進歩がついていく保証は全くないので、これから過去最大の資本所得の不平等を生み出す可能性も十分に考えられます。

これで第Ⅲ部も残すところ11章と12章のみになりました。第Ⅳ部はⅠ~Ⅲ部に比べて文字数もだいぶ少ないので、まとめてブログに上げる予定です。この「21世紀の資本」解説もあと2回で終わりそうなので頑張りたいと思います。

以上、ご覧いただきありがとうございました。

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第5回 トマ・ピケティ「21世紀の資本」

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こんばんは、今回からは第Ⅲ部「格差の構造」に入っていきます。Ⅰ~Ⅳ部の構成なのでやっと半分超えたってところですね。ここからは理論よりも現代に対しての実践的なものが多いので、今までの章に比べると文字数は少なめになりそうです。

第Ⅲ部 格差の構造

第7章「格差と集中ー予備的な見通し」(247頁~280頁)

所得格差の分類

 

現在の所得の格差のファクターは3種類あります。

①労働所得による格差

②所有資本所得による格差

③上記2つの格差の相互作用

これらの要因により私たちの世界では所得の格差が生まれていくのです。まず、一口に所得格差といっても労働所得と資本所得による格差の違いがあることに注意しなくてはなりません。労働所得は技術革新・教育制度・労働市場の動向に影響され、所得資本は貯蓄や投資・金融市場・不動産の動きといったものに影響されるように、これら2つは要因もメカニズムも全く異なるためにしっかりと区別して考える必要があります。

この2つの歴史的データを見ると、資本による所得の格差が常に労働による格差よりも大きいことが分かります。ちなみにこのデータは課税前所得であるので、税が累進的であるか逆進的であるかは問いません。

労働による所得と資本による所得

 

労働所得は資本所得に比べて格差は少ないですが、それでも十分無視できない格差があります。近年のアメリカでは最下層から50%の割合の人の労働所得合計が全体の25%という格差を生んでいます。さらに、労働の格差は富裕者の努力によるもので、貧困は自己責任であるという正当化が行われやすく、格差拡大の傾向も出やすいとされています。一方、資本所得の格差はこれとは比にならない格差が生まれている。先ほどと同じように、アメリカの例を見ていると、最下層から50%の割合の人が持つ資本所得合計は全体の2%で、上位10%の富裕層が72%の資本所得を保有しているというとんでもない格差となっています。

ほぼ資本所得を持たない層にとって、財産というものは、当座預金残高や自分の家といったわずかなものしか持ちません。これに対し富裕層は大量の資本を株などの金融市場に投下して、さらなる不労収入を得るという正のスパイラルに浸っています。

所得格拡大の危険性

 

20世紀後半からの資本所得格差拡大の流れとして、封建主義的な時代との違いを比べると、中産階級の台頭というものが挙げられます。安定的な生活を享受する中産階級の肯定的な資本主義への姿勢が今も進行している再富裕者層への富の集中をないがしろにして、先ほども少し述べたような、格差は金持ちが貧乏人に比べて勤勉で実力があった結果であるとか、金持ちが金を稼ぐのは社会構造の安定に貢献する良い事だとする格差の正当性が強化され、さらなる格差の拡大が起こる可能性も十分あり得るようになっているのです。

これらの所得の不平等については、超能力主義的社会(労働所得)の格差と超世襲的社会(資本所得)による格差の2つがあり、これらが同時並行して進んでいることが現在深刻な格差の問題であるとピケティは述べています。

第8章「二つの世界」(281頁~315頁)

フランス(大陸ヨーロッパ)の富の分布

 

フランスなどの大陸ヨーロッパの先進国では、上位10%の富裕者が持つ所得量が30%~35%程度で安定するようになりました。20世紀初頭までは40%を超える保有率であったのが、富裕層への富の集中に歯止めをかけて、減少させた要因はやはり戦争でした。二度の大戦による恐慌や、資本破産。不景気による公共政策の拡大は、富裕者層が保有する資本に大きなダメージを与えたため、結果的に富の集中を阻む役割を果たしたのです。

アメリカの富の分布

 

アメリカの例では、フランスとはさらに違った一面が読み取れます。戦争により資本の集中はフランスと同じ割合まで減少しています。しかし、20世紀終盤から再び富裕層への富の集中が急激な割合で復活しているのです。このトップ層の所得拡大の理由として考えられるのは、主に株の売買によるキャピタルゲインの増大。もう一つは、大企業の重役の報酬が青天井になっていったということだと述べられています。近年の傾向として見られるのは、トップ層は所得が増えれば増えるほど資本からの所得に対する依存度が上がっていくという点です。超大企業をリードする「スーパー経営者」は自分の仕事の対価として莫大な報酬を手に入れています。この構図が富の集中を加速させている要因となっているのです。このような格差の拡大は、庶民の実質購買力を低下させるために金融不安を生じさせるとピケティは考えています。

 

次回は、労働所得格差と資本所得の格差の2つの格差のファクターについて深く掘り下げていきます。所得の格差の構造について詳しく述べられるであろう章なので丁寧に読んでいきたいと思います。

以上、ご覧いただきありがとうございました。

 

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第4回 トマ・ピケティ「21世紀の資本」

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こんにちは、今日は雨と北風で今年一番の寒さですね。さて、今回は第Ⅱ部「資本/所得比率の動学」の最終章である第6章についてお話していきたいと思います。どうぞご付き合いください。

第6章「21世紀における資本と労働の分配」(207頁~243頁)

 

資本の労働シェア

 

これまでの方程式を使って労働と資本の分配について考えていきます。第1章で取り扱ったa(国民所得のうち資本が占める割合)=r(資本収益率)×β(資本/所得比率)の式を使っていきます。資本が国民所得6年分保有している国の資本収益率が5%であったとしますこのときaは6×0.05=0.3で30%となり、国民所得のうち30%を資本が担い、残りの70%を労働による所得が担っていることが分かります。では、このr(資本収益率)とは一体何なのでしょうか。

r(資本収益率)はどのように決定するのか

 

資本の収益率を決定するのは

①技術の革新(資本が何に対して使われているのか)

②資本ストックの量

の2つから決定されます。そもそも資本は住居の提供という役割(住宅)と財・サービスを生み出す役割(工場やその土地、機材、インフラなど)が主にあります。では、これら二つの決定要因について検討していきましょう。資本が技術革新に寄与される際は、その資本の限界生産性が考慮されます。限界生産性とは資本が1単位上昇したことによる生産された価値の増加分の事です。この限界生産性は資本の量が増加していくと1単位当たりの増加に伴う生産量の増加分が逓減していくという性質を持っています。つまり、β(資本/所得比率)の増加は、r(資本収益性)を減少させていくことになります。このβが増加分にたいして資本収益率がどの程度で減少するのかが問題となります。この資本収益率の減少の幅はa(所得のうちの資本シェア)を照らし合わせることで理解することができます。

資本収益率の低下傾向が資本に与える影響

 

この所得の資本シェアですが20世紀の代表的な考え方は「コブ=ダグラス型生産関数」といわれるもので、これは所得の資本シェアは固定係数になり、安定するというものでした。ピケティはこの理論を20世紀初頭のアメリカのデータのみに頼ったものであるから、非常に短期的な結果で、長期的には所得の資本シェアは変動すると述べています。この根拠として「資本/所得比率の推移に着目して、広い歴史的背景のなかで捉えようとしている」と自身の研究に信憑性を持たせています。

今までに説明した通り富裕国においてβは人口減少傾向による成長率の伸び悩みで拡大していくとしています。aについては技術革新による年々の資本の用途の多様化(ITの発達による機械労働の増加など)と政策による投資への呼び込みの影響で緩やかな増大傾向がみられています。つまり、rはβの増大により低下傾向にはあるが、aの着実な増加のスピードを緩める程度の減少であると言えます。

21世紀の資本の特徴

 

21世紀が始まり、上記の予測に反して、所得のうち資本の担う割合が低下して、労働が担う割合が増加しているという傾向がここ5年で見えています。しかし、ピケティはまだ短期的なデータしかないため、これからこの傾向が続いていくとは考えにくいとしています。この理由として「技術の気まぐれ」という考えを挙げています。技術の革新が人間労働にとって良い方向に動くことも当然あります。(産業革命時は機械生産の普及により、人間が行う労働量が急増しました。ここではこれに伴う労働環境悪化などの諸問題は取り扱いません。)しかし、人的労働に都合の良い技術革新は、当然いつまでも続くわけはなく、このような性格を「技術の気まぐれ」として説明しています。この一方で富裕国の人口減少傾向は既に始まっており、これからも続いていくだろうという予測が確実であると考えられます。そのため、このまま進めば資本/所得比率の増加はほぼ確実であるので、やはり21世紀は所得の資本シェアの拡大が起こると考えられるのです。

第Ⅱ部はこれで終了です。ここでは、資本/所得比率の動向から資本の役割とその範囲について検討して、21世紀の資本がどのような形態となるかをピケティは予測しました。第Ⅲ部は「格差の構造」でこの資本の性質が生む格差問題について踏み込んでいきます。これで全体の半分弱が終了しました。内容的には前提的なものでこれからいよいよ21世紀の経済社会が抱える問題に触れていきます。なんとかあと1か月以内に読み終われるように頑張りたいと思います。

以上、ご覧いただきありがとうございました。

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第3回 トマ・ピケティ「21世紀の資本」

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こんばんは、前回は世界大戦における資本の性質の変化についてお話ししました。今回は第4章と第5章に入っていきます。

第4章「古いヨーロッパから新世界へ」(147頁~171頁)

 

ヨーロッパに対するアメリカの資本状況

 

前章でみてきた、フランス・イギリスの例はヨーロッパ全域でも共通点が多くあります。20世紀からの国民所得に対する資本率の急激な低下はこの共通点の1つです。これは、ヨーロッパの富裕国が頼っていた外国に保有する資本(植民地等)の減少傾向や、第二次世界大戦で主戦場となったことによる物理的被害、これらによる貯蓄率の低下が大きく影響しています。しかし、近年は農地という資本形態は減少したが、資本/所得比率そのものはあまり変化していないというのは前回もお話しした通りです。

これに対してアメリカはどうでしょうか。まず特徴として、19世紀頃はヨーロッパに比べて莫大な土地を持っていたため、農地の資本価値があまり高くなかったこともあり、資本/所得比率は300%程度とヨーロッパ諸国よりも低い水準でした。大戦期に注目すると、ヨーロッパとは大きく比率が異なります。上記のような20世紀の比率の激変がほとんど見られずに安定した水準を保っています。これは欧州各国よりも、外国資本を比較的に所有していなかったためであるとされています。戦地を免れたアメリカは、独立から発展に向かう際にヨーロッパに保有されて、マイナスとなっていた純外国資本(外国に保有している資本−外国に保有されている資本)を取り返し、アメリカ国内全体の資本のうち98%を自国で保有していたため、外国資本の価値低下に巻き込まれなかったのです。

過去の資本における奴隷制の重要性

 

19世紀の南部アメリカでは奴隷資本が全体のうちで大きな割合を占めていました。当時の綿花のプランテーションとして、イギリスが綿工場を経営し、原材料となる綿花を南部アメリカに作らせる。この際ヨーロッパから運ばれてきたアフリカ諸国の奴隷民を活用して綿花を大量に生産するというような形でした。このころの資本データにはこのような奴隷制に依存したものもあり、このような社会は現在では存在しないので注意をしなければならないとピケティは述べています。

第5章「長期的に見た資本/所得比率」(172頁~206頁)

資本と成長率を結びつけるβ=s/gの法則

 

まず、この章で重要な役割を果たす式について説明します。

β=s/g

各記号の意味は、βが資本/所得比率sが貯蓄率gが国民所得の成長率です。g(成長率)は、1人当たり所得の増加数と人口増加数の和です。では、早速例にならってやっていきましょう。

ある国では毎年の国民所得のうち平均して12%が貯金され、所得成長率が2%であったとします。この国の資本/所得比率は0.12÷0.02=6=600%となります。つまり、この国が300億円の資本を保有しているとすれば、国民所得は50億円であるということになります。この式を扱う上で注意する条件が3つあります。1つ目は、この式は長期的な結果を表すといいうことで、富の蓄積には時間がかかるということ。2つ目は人間が蓄積できる資本に限られるということ。3つ目は資本物価が商品物価と比べて急上せず、同じように推移しているときの数値である(不動産や金融のバブルはここでは検討しない)という3点です。これらに注意してこの式を扱うと低成長が与える影響について検討することができます。

成長率鈍化と資本/所得比率の増大による資本シェアの偏り

 

先ほどの例で成長率の重要性を確かめるために、成長率を2%から1.5%に変更してみましょう。s=12%,g=1.5%なので0.12÷0.015=8つまり、β(資本/所得比率)が800%のなり、成長率が0.5%下がっただけで所得における資本比率は200%も上昇します。

このことは、成長率が低下傾向にある社会では資本の重要度が上がっていくことを表し、資本という価値の上がった富の分配問題に発展していきます。現在資本を大量に所有している富裕層がその資本の価値を所得の減少と引き換えにどんどん上げていってしまうという社会構造が完成していってしまうのです。このg(成長率)の低下傾向は世界的な人口減少の影響でだんだんと進んでいくと予想されます。

民間資本の上昇傾向

 

前節で述べた資本/所得比率の上昇は世界の富裕国で表れています。ちなみに、この資本はほぼすべて民間資本であり、公的資本の割合は非常に低いかむしろマイナスです。この上昇は、日本のバブル崩壊などの短期的な資本の急激な低下などは見られますが、長期的にみると第2次大戦後から、どの国も17,8世紀の高水準と同じレベルまで上昇しているのです。この民間資本拡大は、先ほどのβ=s/gの式で割り出された成長の鈍化による影響だけでなく、各富裕国での民営化の促進や、不動産や金融市場の価格変動に対するキャッチアップ現象からの影響もあります。

純外国資本の可能性

 

国内資本を民間資本と公的資本に分類すると民間資本の占める割合がほとんどであると分かりました。分類方法を変えて、資本を純国内資本と純外国資本に分けて考えても、第4章の説明の通り世界大戦以降の純外国資本はどの国でも低い割合しか持ちません。つまり、現代における国の資本は民間資本への依存度が極めて高いということになります。この純外国資本は、今は非常に数値は低いですが、これから国によって純外国資本が増加する可能性は考えられます。(当然、植民地としての所有はここでは検討されていません。)なぜかというと、資本/所得比率の割合はどの国も上昇傾向を見せていますが、国によって割合にばらつきがあるからです。例えば、高齢化による貯蓄率の上昇と、人口減少による所得成長率の下落が発生している日本では比較的に資本/所得比率の割合が高いです。資本を大量に保有している国家が、逆に資本/所得比率の低い国に投資するのはよく行われることで、2010年代前半では日本の純外国資産は国民所得の約70%まで上昇しています。しかし、これはあくまで可能性があるというだけで、純外国資本比率が世界的に低い割合を推移し続ける可能性も十分に考えられます。

さて、ここまでの章を振り返ると、資本と所得の割合やその歴史について検討してきましたが、次章ではこの資本がどのように労働の分配をに関係するかという本書の目標である「分配の問題」の一つに入っていきます。空いた時間をつかって少しずつ読み進めていきたいと思います。

以上、ご覧いただきありがとうございました。

 

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第2回 トマ・ピケティ「21世紀の資本」

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こんにちは、ここ数日でめっきり寒くなってきましたね。この週末は家に引きこもってひたすら本を読んでいたので、2日連続で「21世紀の資本」の記事が書けました。

今日は2章と3章のお話をしていきたいと思います。

第2章「経済成長ー幻想と現実」(77頁~116頁)

経済成長の要素

 

経済成長という漠然とした考えですが、このファクターはざっくり「人口増加」と「1人当たりの産出量の増加」の2つです。

「人口増加」はここ数世紀で比べると、現在は平均寿命の延びに対して出生率の低下が相殺する形で1~2%台で低成長をキープしています。(問題の単純化のため、ここでは労働力人口についての検討は控えさせていただきます。)「1人当たりの産出量の増加」は技術革新により達成しており、西欧・北米では同じく2%程度の成長をしています。全世界でならしてみると3%程度の経済成長率だそうです。

経済成長から考える格差問題と社会環境

 

上で分析した経済成長は、格差問題とどのような接点があるのでしょうか。まず「人口増加」ですが、これは相続財産の価値を引き下げることに役立ちます。相続した資産が少ないと世襲的な格差の拡大はなくなります。ここで注意が必要なのは、社会的な富のモビリティは高まるが、実力主義的な格差拡大に正当性を与えてしまうという結果にもなるとです。相続資産がほぼ均等であったとしても、社会的に失敗してしまい貧困に陥った人を「あの人は努力が足りなかったんだな」と見切りをつけるのは簡単ですが、正しい社会であるとは言い切れません。

「1人当たり産出量の増加」ひいては「経済成長」は購買力の増加をもたらします。購買力の上昇は社会環境の向上に大きく関連しています。自転車を例に挙げて過去と比較すると、性能のよくない自転車が国民の平均月収1か月分という非常に高価だったものが、確実に性能の上がった自転車を大体1週間分の給料で購入できるようになりました。このような購買力上昇は、人々の衣食住を快適にして、社会保障なども安定させていきました。

ピケティの楽観的成長予測

 

気になる将来の経済成長率ですが、ピケティの楽観的な予測として世界成長率1~2%でキープするだろうと述べられている。ただしこれには条件付きで、①富裕国の生産成長が大幅な技術開発が継続され(SDGs)1%程度で推移すること。②新興国経済が富裕国との差を縮めて、これを妨げる政治的・軍事的な行為が起きないこと。という2つを挙げています。グローバル化による世界の成長率水平化を目指す傾向も、長期的な経済成長の維持には必要だと考えられています。

第Ⅱ部 資本/所得比率の動学

第3章「資本の変化」(119頁~146頁)

資本性質の変化

 

イギリス・フランスの例で考えると、資本の量は第1章のβ値(所得と資本の比率)で測ると18世紀20世紀初期までは700%あたりで推移していました。この資本の中で、年々下がってはいますが農地が占める割合は最も高いものでした。20世紀の大戦がはじまると、各国は軍事・政治・経済衝突から国内資本は最低で200%あたりまで落ち込みます。しかし、21世紀にかけて、国内資本は猛烈な勢いで回復し、すでに500%以上までに増加しています。重要なポイントとして、総量は元の推移に戻りつつあるが、資本の中身が全く異なっていることに注目してください。今や農地の占める割合は2,3%で、大半は住宅資本や金融資本・工業資産などです。資本の重要性は変わりませんが性質は大きく変わりました。

ケインズ政策とインフレによる資本再分配の失敗

 

 

国民資本は「公的資本」と「民間資本」に分けられます。上記にもあるように、20世紀の大戦で莫大な資金が必要になった政府は公的債務を発行して、これを賄いました。公債を購入でき富裕者層はこれを大量に購入し、この年利でさらなる利益を持つというさらなる格差が生まれ、政府も膨れ上がった公債の返済に追われていました。世界恐慌による失業者も増加していたため、国家の経済非介入や私的資本所有の独占に批判の声が集まりました。そこで、政府はケインズ的な市場介入政策や、インフレによる再分配のメカニズムで応えようととしました。インフレを起こせば債務の価値は萎れていき、過去の公債からの利子による不労所得を廃することができ、公的資本を再分配することができます。

しかし、このインフレによる再分配は非常に扱いが難しく、所得が急激に増える社会集団と伸び悩む集団が生まれて、失業率はそれほど改善できずに、スタグフレーションという問題を引き起こしました。

ケインズ的市場介入政策で企業の国有化を進めてきたフランスでしたが(ルノーもこの流れに乗じて国有化されました)スタグフレーションで打撃を受け、この市場介入政策は緩められていき、再び公的資本は減少し、民間資本が拡大を見せているのが今の状況です。ケインズは公債の負担削減と、公債利子による世襲財産の撤廃にはインフレが効果的であるが、必ずしも正当な方法ではないと考えていたようです。この問題の正解が見つかれば、世界はもっとよいものになるでしょう。

次回はいつ投稿できるがわかりませんが近いうちにできるように頑張りたいと思います。以上、ご覧いただきありがとうございました。

 

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